世界と向き合うエンジンを
※YondemyではMissionとして「日本中の子どもたちへ豊かな読書体験を届ける」を掲げている一方で、Visionはあえて一つに限定するのではなく、メンバーそれぞれが思い描くこととしています。
本は、静粛です。文字が刻まれて動かない状態。
誰かと話すときであれば、相手は動いてくれます。テレビをみるときであれば、映像は動いてくれます。向き合った相手には、エンジンが備わっているのです。
でも、本を読むときは違います。じっとそこで待っている静かな文字の中を探検していくのは自分しかいません。自分のエンジンで進んでいくしかないのです。裏を返せば、いつだってブレーキがかけられるということでもあります。そうやってアクセルを踏む経験が、物事に自ら対峙する姿勢を、欲しいものを取りに行く貪欲さを、養ってくれるはずです。言い換えれば、自分のエンジンを育てる行為です。
本は、凝縮です。文字に刻まれて動かない状態。
誰かが考えたことは、そのままの状態では残りません。「考えたこと」という拡張子のファイルはなくて、純粋な状態の思考はその人だけのものです。
でも、人間はそれを文字に落とし込んで、なんとか伝えようとしてきました。物語の世界だって、物事への思いだって、書き物の中に頑張って詰め込んでしまおうと。読書は、まずはそれを受け止める行為です。想像力や論理的思考力と呼ばれるものは、文字列に閉じ込められたものを突いて、膨らませて、動きを与える業です。そうやって相手を見つめた経験が、情緒をたしなむ豊かさを、本質を掴む怜悧さを、養ってくれるはずです。言い換えれば、世界と向き合う力を育てる行為です。
技術がどんどん進んで、世界がどんどん動的に、ぐちゃぐちゃになっていく様相は止まらないでしょう。情報なんてそこらじゅうに溢れかえってます。
別に動いていなくたって、河は流れて水で潤してくれます。けれど、その奥底にある砂金を掴みに行くには、世界と向き合うエンジンに鞭をうたねばならないのです。